●6月1日にNECとカシオ日立モバイルコミュニケーションズが事業統合し、NECカシオモバイルコミュニケーションズが発足しました。
山崎 構想から1年余り、ようやくここまで来たかという気持ちです。いざ実現してみると、自画自賛するわけではありませんが、「いい相手と組むことができた」と思います。
というのも、両社にはNECにはないものがあるからです。カシオはCDMA2000方式の携帯電話を手がけており、国内ではKDDI、海外では米ベライゾン・ワイヤレスに供給しています。タフネスケータイ「G'zOne」やデジタルカメラ「EXILIM」のほか、腕時計や計算機などでも強力なコンシューマーブランドを持っています。
一方、日立には「家電の目」があります。KDDIから夏商戦向けに発売される「beskey(ベスキー)」は、「決め打ち」「流し打ち」「両手打ち」といったキーの打ち方に合わせてテンキーシートを取り替えられるようになっています。消費者の使い勝手を考えた発想であり、家電製品を作っている会社ならではの商品です。
NECがコンシューマー向けに商品を開発する際、注視するのはデザインの観点であり、「利用者がどう使っているか」という視点は少々欠けていたように思います。これは合併するまで気づかなかったことであり、合併効果の1つといえるでしょう。
●持ち味の異なる3社が統合することで、各社のブランドの活用など相乗効果が期待できますね。
山崎 3社のブランドが使える状況にあるのは有利なことです。商品のコンセプトとマーケットを考え、一番有利なブランドを利用していくつもりです。海外に関してはカシオの知名度が高いので、カシオブランドを活かした展開をすることになるかもしれません。
料理にたとえれば、今までは中華しかなかったけれど、洋食やイタリアンの材料も揃った状況です。それをどう料理するかは我々の腕次第です。深く考えずに混ぜるだけではおいしくなくなります。まさに腕の見せ所だと思います。
●今後、ドコモ向けにカシオブランドを展開したり、au向けにNECブランドを展開する可能性はありますか。
山崎 あると思います。ただ、ブランドの数が増えるとお客様も増える一方、混乱を招く可能性もあります。また、通信事業者に対する配慮も必要です。先ほどの例にならえば、使える材料が揃ったからといって、無作為に料理するとごった煮になってしまうので難しい問題です。
低価格端末も強化
●中期目標として、2010年度にワールドワイドで出荷台数750万台、2012年度に同1200万台を掲げています。09年度の実績はNEC単独で360万台ですが、どのようにしてこれらの数字を実現するのですか。
山崎 先ほども述べたように3社の強みを活かして商品力を強化するとともに、マルチブランドを活用して規模を広げます。また、スマートフォンや低価格端末にも商品ラインナップを拡大する計画です。
国内市場について語るときに外せないのが、スマートフォンをどう捉えるかです。現在はiPhoneをはじめスマートフォンの販売が好調ですが、新しいものに関心があってスマートフォンに移行したものの、再び携帯電話に戻ってくるお客様もいると思います。一方的にスマートフォンにお客様が流れることはなく、どこかの時点で携帯電話と均衡するだろうと見ています。
ただ、海外ではスマートフォンが伸びていることから、海外に出て行くためには我々もスマートフォンを展開しなければなりません。昨年度はAndroid端末が想定外のスピードで普及したため、我々ももっと加速しておくべきだったと反省しています。Androidで出遅れた分をどうやってキャッチアップするかが当面の課題です。今年度中にAndroid OSを搭載したスマートフォンを発売する予定ですが、年内に前倒しすることも検討しています。
海外向けと国内向けのどちらを先に発売することになるかはわかりませんが、OSなどをできるだけ共通化してコストのかからない商品を開発していきます。
●低価格端末のラインナップも拡大するとのことですが、これはスマートフォンと2台持ちする際の1台目需要を想定しているのですか。
山崎 一部のユーザーは、携帯電話とスマートフォンの2台持ちになっています。その場合、携帯電話は音声やメール、SMSなど通信事業者が提供する垂直統合型のサービス用、スマートフォンはWeb用として使い分けており、携帯電話はシンプルで十分ということになります。
低価格端末には2通りの方向性があります。1つはそこそこの機能を搭載し、値ごろ感のある商品を提供することです。こうしたアプローチで、LG電子がドコモ向けに優れた商品を出しています。当社でもLGに対抗できるような商品を今年度中に開発する計画です。
もう1つは必要最小限の機能に絞った安価な商品です。台湾や中国勢が得意としている分野ですが、NECでも子供向けの「740N」とビジネス向けの「741N」を出しています。740Nと741Nはカラーバリエーション以外の外観は共通で、いずれも機能は音声とSMSに限定されています。
子供に携帯電話を持たせるべきか否かという議論がありますが、裏サイトやいじめの問題から持たせることに反対する父兄もいれば、塾帰りの連絡手段として持たせたい父兄もいます。
740Nや741NはWebブラウザが非搭載なので、裏サイトやいじめに利用される心配がありません。しかも防水性能や防犯ブザーを搭載しているので安心して使えます。こうした商品はシンプルゆえの価値があります。
高画素カメラの次は3Dが牽引
●将来的にはスマートフォンとシンプル端末に二極化し、高機能端末の割合が低下するとの見方もあります。
(聞き手・土谷宜弘)
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