●2009年7月1日に子会社だった日立コミュニケーションテクノロジー(日立コム)を吸収合併して1年強が経過しました。改めて、狙いとこれまでの取り組みを聞かせて下さい。
厚海 当社は現在、日立ならではの強みを生かし、高信頼な情報通信技術に支えられた社会インフラを実現する「社会イノベーション事業」への傾注を進めています。
日立コムの吸収合併はその一環であり、社会インフラに位置付けられる次世代ネットワーク(NGN)における提案力、技術力、システム構築力の強化を図り、通信キャリアを中心とする顧客の多様なニーズに応えることが目的でした。
1年が経過した今は、日立製作所にはさまざまな業種のSEや営業がいますので、各事業部と連携し、公共系の通信システムや大型コンピューターも含めた、情報と通信が一体となったシステムのご提案ができるようになってきました。
情報系以外でも、例えば情報制御システム社は電力系のユーザーを抱えています。現在スマートグリッドが注目されていますが、通信系のところ、スマートメーターとの接続部分を我々がビジネスとして手掛けていくことも視野に入れており、新規ビジネスのための連携も取りやすくなりました。
●社会イノベーション事業の重要なメンバーとして貢献できるようになったということですね。
厚海 社会インフラの神経網として、通信は非常に重要ですので、今後も力を入れてやっていきたいと思っています。
実は、昨年7月にはもう1つ、民需系の設計部隊を戸塚(横浜市戸塚区、通信ネットワーク事業部の拠点)にすべて集約するということも行いました。
以前はキャリア向け機器の設計を戸塚で、民需系は郡山(福島県郡山市)で分けて行っていましたが、ともにIP技術を使用した製品が増えていることもあり、この際、両方を融合した組織でIPベースのさまざまな技術開発を行っていこうということになりました。
現在、ホームゲートウェイ等の開発に取り組んでおり、新しい製品を共同で開発する体制が出来上がりつつあります。
MPLS-TPで高品質なNWを実現
●通信キャリア向けと民需系の2本柱で展開していますが、キャリア向け事業では昨年、「MPLS-TP(MultiProtocol Label Switching-Transport Profile)」を採用した伝送装置を市場投入し、国内キャリアに導入されて注目を集めています。
厚海 MPLS-TPは、現在ITU-TとIETFで標準化が進んでいるパケットベースのトランスポート技術で、ATMやSDHと同等の信頼性が得られます。
イーサネット専用線や広域イーサネットサービスと既存の専用線、ATM、SDHなどのサービスを1つの伝送装置で提供できますので、より効率のよい高速な通信ネットワークを実現可能です。ですから、今後もMPLS-TPに注力していきます。
●モバイルでは一昨年、KDDIからLTEのネットワーク機器ベンダーに選定されました。
厚海 米国テキサス州のダラスに開発センターを設置しました。国内向けの製品の一部もそこで設計開発していますが、今後は海外キャリア向けにも展開していきたいと考えています。
●通信キャリアの大きな課題に、クラウド対応があります。通信ネットワーク事業部としてはどのように対応していきますか。
厚海 情報・通信システム社では、プラットフォームソリューション事業部がクラウド関係をまとめています。ですから我々は、通信ネットワークの部分で、先述のMPLS-TP等の提供で貢献していきます。
PBXとアプリの連携を推進
●もう一方の柱である民需系事業では、PBXもビジネスホンも長引く不況の影響でリプレース案件がずっと止まっていましたが、そろそろ動き出すという見方もありますね。
厚海 昨年ほどの市場の冷え込みは感じませんので、ユーザー規模に関係なく、少しずつリプレース需要が回復してきているというのが実感です。
●そうなりますと、今後は民需系ではよい数字が出そうですか。
厚海 ただ、それぞれの製品単価は下がっていますし、モバイルキャリアのFMCサービスも登場していますので、結構厳しいと感じています。我々としては、少しシェアを上げながら、全体としては売り上げを伸ばしていきたいと思っています。
●PBXのシェア目標はどれくらいに設定していますか。
厚海 昨年の当社は24%くらいでした。これを近い将来、30%に持っていきます。
●それは意欲的な目標ですね。最近は撤退や合併が相次いでいますので、「残存者利益」と言いますか、地に足をつけて取り組んでいれば、シェアは伸びそうです。
(聞き手・土谷宜弘)
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