●シスコは11月24日、「Collaboration Summit Japan」を東京・渋谷で開催しました。コラボレーションをテーマにしたイベントとしては非常に大規模で、この分野にかけるシスコの熱意を強く感じたわけですが、企業におけるコミュニケーションやコラボレーションの今後について、どう考えていますか。
平井 コミュニケーションとコラボレーションは、常に一緒に語られがちですが、まず指摘しておきたいのは、この両者はまったく似て非なるものだということです。コミュニケーションは、あくまで情報伝達。一方、コラボレーションとは価値創造のプロセスであり、次元が違っています。
最近、我々は「ユニファイドコミュニケーション」ではなく、「コラボレーション」という言い方をするようになっていますが、その理由は、コミュニケーションの一段上の次元であるコラボレーションのフェーズに今、来ているからです。
●日本語にすると、コミュニケーションは「伝達・連絡」、コラボレーションは「協業・協力」ですから、確かに別物ですね。「コラボレーションのフェーズ」とは、企業が必要としているのは、もはやコミュニケーションのツールではなく、コラボレーションだということですか。
平井 そうです。ただ、そう言うとグループウェアやIM、電子メールなど、コミュニケーションやコラボレーションのためのツールは「全部揃っている」と言われる企業がたくさんあります。しかし実は、使い方を間違えていることが少なくありません。典型的な例が電子メールです。非同期通信である電子メールはコミュニケーションツールではありますが、コラボレーションツールではありません。このように、適材適所でツールを使っていないケースが数多く見受けられます。
●コミュニケーションとコラボレーションをきちんと分けて捉え、適切にツールを使う必要があるのですね。コラボレーションを加速させるツールとして、シスコが特に注力しているのはビデオです。今後すべての端末製品にビデオ機能を搭載することも明らかにしました。
平井 リアルタイムビデオは、離れた場所にいる人たちが、新しい価値創造という本当の意味でのコラボレーションを行うのに必要な道具です。シスコの社内ネットワークにおいては、すでにトラフィックの80%がビデオとなっていますが、ビジネスシーンにおいてビデオはもっともっと主役になっていくでしょう。
二人三脚で次世代企業を
●もう1つ、社内SNSや社内Twitterなど、Web2.0ツールの企業内利用の重要性についても近頃強調されています。シスコ自身も、企業向けにこれらの機能を提供する統合ソ
ーシャルネットワーキングソフト「Cisco Quad」を発表しています。
平井 これだけグローバル規模で経営環境が激しく変化しているのですから、グループウェア等の固定的なツールでは追いつけません。そこで、リアルタイム性の高いソーシャルネットワーキングが企業でも普及していくというのが我々の考えです。また、SNSなどで素晴らしい点としては、今まで知らなかった人たちと無限大でつながっていけることもあります。
一個人としては日頃使っているのに、なぜオフィスに入った途端、活用できないのか。私はパソコン世代ですが、今インターネット世代が企業の中核になっています。そして、ここ数年、就職した若い世代は、SNSを中心としたソーシャルネットワーキング世代です。その彼らが今後、企業の原動力となってくるとき、ソーシャルネットワーキングの技術を活用しない企業は発展できないでしょう。
●さらにシスコでは「ダイナミックネットワーク組織」という組織モデルを提唱し、また自ら実践していますね。
平井 トップが「右!」と言えば皆が右を向く階層構造のコマンド&コントロール型組織では、現在の変化のスピードの速さには対応できません。社員1人ひとりがもっと機敏に動け、しかも自身が持っているポテンシャルを最大限に引き出すことができる組織形態が必要です。
別名エキスパート組織とも呼ばれるダイナミックネットワーク組織では、コラボレーションツールの活用により、社内外の多様な人材が組織や場所などの壁を越えてダイナミックにプロジェクトチームを組み、意思決定を行っていきます。今、流行の「オープンイノベーション」を組織体に活用したモデルと言うこともできるでしょう。
●平井社長は10月6日の事業戦略説明会で「Ignite Japan!」(燃え上がれ日本)という新ビジョンを発表しましたが、そのなかで挙げた3つのテーマの1つが「次世代企業の創造」でした。シスコは今後、企業を次世代型に変革していこうというわけですね。
平井 シスコが企業を変革できるとは思っていません。我々にできるのは、シスコ自身の経験を1つの比較材料、ベンチマークとして提示することで、決められるのはお客様です。しかし、企業のあり方そのものに一石を投じたいという思いは当然あります。
●コラボレーションやダイナミックネットワーク組織の重要性は理解できるのですが、一方で既存の販売パートナーからすると、ハードルが高いと思うのですが。
(聞き手・土谷宜弘)
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