●東日本大震災の教訓について、電波行政を預かる立場としてはどのように捉えていますか。
田原 これまで移動通信の世界では、インフラの強化や新たなアプリケーションの投入など、もっぱらサービスの高度化に目が行っていたと言っても過言ではありませんでした。しかし、今般の震災では、通信施設そのものがかなりの被害を受け、輻輳で携帯電話が長時間つながらないといった問題が生じました。
通信は生活を支えるインフラであり、災害時には命をつなぐ重要なインフラになります。その信頼性や、災害時における通信の確保をどのようにしていくのかを、今一度しっかりと考えなければならないと思っています。
●通信の確保という意味では、震災直後から携帯電話が復旧するまでの間、どのような対応をしたのですか。
田原 総務省では、簡易無線やMCA無線、衛星携帯電話など、合計で約1500の無線端末を自治体や自衛隊などの災害救助に携わる方々や避難所等に貸し出しました。例えば、MCA無線は、半径20km〜30kmといった広域エリアで、震災後もほぼ途絶することなく使えたため、被災地での救援活動等に広く活用されました。
このように、大規模災害時には、携帯電話だけでなく、色々な通信手段を使って通信を確保していく必要があります。
もちろん、携帯電話網そのものを従来よりも災害や輻輳に強くするには、どのようにしたらよいかの検討も必要です。すでに移動通信事業者各社は大ゾーン基地局の活用など、具体的な対策を打ち出していますが、行政としても、そうした民間の取り組みの支援や、規制の見直しなど、対応が必要な部分はしっかりと考えていかなければなりません。
総務省では、総合通信基盤局長を座長とする検討会を設置し、通信事業者等の協力も得ながら幅広い視点で検討を進めており、年内を目途に報告書を取りまとめる予定です。
例えばネットワークの輻輳に関して、過去の震災の経験に学び、音声呼とパケット通信の輻輳制御が切り分けられました。今般の震災で、電話はつながりにくくなりましたが、メールはつながったというのは、この対策が生きたのです。
今回の震災を教訓として、新たな対策が打てるよう、議論を深めていく必要があります。
900M帯は来年から移行を開始
●移動通信市場は転換期を迎えているといわれています。行政の課題の重点は何ですか。
田原 一番大きいのは、トラフィックの急増です。移動通信事業者の協力を得て、データのトラフィック量を集計しているのですが、昨年6月〜9月の集計では、年率換算で64%の増加だったものが、その後の期間では、さらに大幅に増加しています。各事業者が秋冬モデルでスマートフォンのラインナップを拡充したことが影響していると考えられます。
トラフィックの急増はそれ以前から顕著になっており、近い将来の爆発的な増大が懸念されていました。このため、より周波数利用効率の高いシステムの導入や新たな周波数の確保が不可欠と判断し、昨年「ICTタスクフォース」の電気通信市場の環境変化への対応検討部会のもとに、「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」を設置して検討を重ねました。
●その中心となったのが、700/900 MHz帯の見直しですね。
田原 はい。テレビのアナログ放送終了で空き地となる700MHz帯の一部帯域と、NTTドコモとKDDIが利用している800/900MHz帯の再編で空きが出る900MHz帯の帯域で、最大100MHz幅程度を確保することを目標としています。
先行しているのは900MHz帯で、干渉評価等の技術的検討が終わり、LTEやDC-HSDPAなどで利用するということで、情報通信審議会の答申もいただきました。
あわせて、900MHz帯を利用しているRFIDやMCAといった既存システムの周波数移行を2012年から開始できるよう、速やかに技術基準等の整備を進めることとしています。
今国会において成立した改正電波法により、例えば、900MHz帯を新たに利用する移動通信事業者が別の周波数帯に移っていただく既存ユーザーの移行費用を負担するといった制度が導入されましたので、こうした制度の活用を念頭に、年内を目途に新たな事業者を決定できるよう手続を進めます。
●2012年から5MHz×2のペアバンドで利用を開始し、2015年からはさらに10MHz×2の利用を図るというのが基本的な考え方として示されていますが、どのように事業者に割り当てるのですか。
(聞き手・土谷宜弘)
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