●東日本大震災では、通信機メーカーの生産工場も被災し大きな影響が出たところもありましたが、御社は直接的な被害は少なかったようです。
谷本 震災自体はとても不幸な出来事でしたが、たまたま当社の工場は震源から離れていることで工場のラインは無事でした。しかしサプライチェーンの寸断等でさまざまな形での影響が出ました。
震災直後は物流機構がマヒし、お客様の受け入れ態勢が乱れたことで、出荷ができない状態が続きました。
最も影響を受けたのは、計画停電でした。群馬県前橋市の2カ所の工場が、結果的に停電回数の最も多いエリアに入ってしまい、生産態勢の維持に随分苦慮しました。
震災の1週間後以降は、予定通りの出荷ができましたので、年度末の売上高は、当初見込みの136億円を上回る140億円を達成することができました。
●業績面での大きな影響は受けなかったわけですね。
谷本 本格的な影響を受け始めたのは4月以降でした。部品メーカーが被災した影響で、在庫部品を使い切った後は生産が停滞し、予定生産数を下回りました。それによって主力のビジネスホンが出荷できずディーラーの皆様には多大なご迷惑をお掛けしてしまいました。6月末くらいにようやく正常化のメドがつきましたが、今年度第1四半期の計画値は未達となりました。幸い、まだ年度初めなので、残りの3四半期で取り戻せると思っています。
●万一に備え、部品の在庫をどの程度抱えるかが経営課題ですね。
谷本 過度に在庫は持てないので、そのバランス加減が難しいです。会計年度ごとに決算していますので、年度末に過剰な在庫は持てませんが、年度の中盤くらいまではある程度余裕をもった在庫で運用するのもよいのではないかと考えています。
それと、部品の代替品を用意するのかも考えなければなりません。分散発注になると大量購入によるコスト効果が出ませんので、デメリットも考慮したうえで検討していきます。
会社の使命は発展すること
●昨年5月に、3カ年間の新中期経営計画を発表されました。この狙いはなんでしょうか。
谷本 会社としての対外的な宣言であることはもちろんなのですが、社員の意識を1つに合わせる目的もあります。
私は2年前の社長就任時から社員に対し、「私たちの一番大切な役割はこの会社を発展させることであり、それが結果としてお客様のため、株主の方々のため、社員のため、そして世の中のためになる」と説いてきました。それを実現するには、具体的な数値目標が重要と考え、136億円、151億円、170億円という3カ年の右肩上がりの売上目標を掲げました。会社は存在する以上、発展しなければなりません。自明のことですが、とても大事なことです。
そのうえで、「事業構造の改革」と「経営体質の強化」の2つの課題を設定しました。
事業構造の改革については、我々はこれまで、ずっと同じようなことを続けてきているが、本当にこのままでよいのか、我々は世の中に合わせて変わっていかなければならないんだということを言っています。実は、当社の経営理念にも「会社は公物である」「会社は時代と共に生きる」「会社は世の中と相対的に発展する」と書いてあるのです。
経営体質の強化については、事業内容や規模に見合った組織の整備と人員配置を行うことで、無駄のない組織にすべく、取り組みます。
●事業構造の改革という点では、御社は自社比率が低いということがよく指摘されていますね。
谷本 当社の現状ですが、売上高を販路別で分けると、約7割が日立グループとNTTグループで占め、残りが直販とナカヨ電子サービス経由の自社ブランドになります。
日立グループとNTTグループは大切なお得意様ですから、これはしっかり守っていきますが、これまでと同じように、依存率を高くしたままの状態をいつまでも続けていては、会社の発展はありません。私は、全体の売上拡大で売上比率の半分を直販とナカヨ電子サービスで占めるように変えていきたいのです。そうして、足腰の強い会社にならなくてはいけないと考えています。
顧客のオフィス全体をサポート
●「新規事業の開拓」といったサブテーマを掲げているのは、そういった狙いがあるのですね。具体的にはどういう取り組みですか。
谷本 情報通信というコア事業には、これまで以上にしっかりと取り組んでいきます。そのうえで、通信とは関係のない世界にも思い切って飛び込んでいかなければならないと思っています。
例えば、情報通信機器を製造・販売している我々にとって一番身近なのは、お客様のオフィスですから、コンサルからオフィス家具の販売、オフィス内のさまざまな機器のメンテナンスまで、お客様のオフィスで必要なことには何でも対応する「オフィスのトータルプランナー」になるという選択肢があります。
また、我々は医療や介護という得意分野があります。そこでもオフィスと同様のことができるのではないかと考えています。
●それは、「物を作って売る」という枠を超えて、一種のサービス業を手掛けていく、いわゆるストックビジネスにも入るということですね。
(聞き手・土谷宜弘)
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