●社長に就任してから2カ月余り。携帯電話を作る立場から売る立場へと転身された感想をお聞かせください。
山 この数年を振り返ってみると、NECのモバイルターミナル事業本部長を務めた後、NECカシオモバイルコミュニケーションズ社長を経てNECモバイリング社長と、似たようなフィールドでありながらミッションが次々に変わってきました。これだけ短期間に変化があると、自分の中では大変だと思う部分もあるのですが、その時代によって要求される自分の資産を活かせる場所に動いているのかなという気がします。
NECモバイリングに来て最初に感じたのは、この1年ほどの間にフィーチャーフォンからスマートフォンへ急速にシフトしたことで、モノ作りの現場だけでなくモノ売りの現場でも、ものすごい変化が起きているということです。
フィーチャーフォンは垂直統合型のサービスでほとんどパッケージングされているので、すぐに使いこなせます。これに対しスマートフォンは「素材」であり、アプリケーションや保護ケース、microSDカードなどを後からカスタマイズしなければなりません。それだけ手間がかかりますが、付加価値を付ける場がモノ作りからモノ売りへと移ってきているわけで、販売代理店のビジネスの自由度が広がっていることも意味しています。
●販売現場の重要性がいっそう増していると言えますね。
山 その通りです。スマートフォンでは、端末の形状で差別化することが難しくなります。その代わりに、店頭でどれだけわかりやく丁寧な説明をするか、待ち時間を短くするか、といったことが価値を持つようになり、販売代理店の競争軸になります。
●では、そうした中でNECモバイリングは何が強みになるのですか。
山 販売代理店にはメーカー系や商社系、量販店系などいろいろありますが、当社はメーカー系で唯一、エンジニアリングを持っている会社です。ですから、遠隔応対システム「ビジュアルコンシェルジュサービス」などの基本スペックを自分たちで設計することができます。我田引水かもしれませんが、今後、素材化したスマートフォンに付加価値を付けていくときに重要なコンピタンス(能力)になるのではないかと感じています。
サービスで対価を獲得
●御社はモバイルセールスとモバイルサービス(端末修理、基地局関連)が事業の柱ですが、この方針は変わらないのですか。
山 柱は同じですが、中身を少し変えていかなければなりません。これらの事業は我々のコンピタンスであり、その適用範囲をどう広げていくかが課題です。
例えばショップ事業を海外に展開しようとしたときに、出て行きやすいのはアジアであり、特に中国です。中国で成功している日系企業は、どちらかというとサービスや接客関連を強みとしています。以前はサービスにお金を払う余裕がなかったのですが、今は豊かになり、多少高くても丁寧な接客を求めるようになっています。
当社は上海でアップルの端末修理を請け負っていますが、スマートフォンの使い方やアプリケーションを教えることで、対価を得ることも可能かもしれません。また、中国は日本と比べると人件費が安いとはいえ、ビジュアルコンシェルジュサービスやセルフ方式の販売支援ツール「スマートコンシェルジュサービス」を展開すれば、業務効率化をサポートすることもできます。
国内では、スマートフォンが購入しやすい価格設定になっていることもあり、修理需要が減少しています。海外メーカーの参入で国内メーカー端末の割合が低下しているので、海外メーカーにも営業をかけて、保守のお客様を増やしていこうかと考えているところです。
積極的に新規事業も展開
●端末販売では、ソフトバンクモバイルに続いて、NTTドコモ、KDDIもスマートフォンの比率が急速に高まっています。販売現場から、今後の市場環境についてどのように見ていますか。
山 ドコモを例に挙げると、今年度のスマートフォンの目標販売台数を600万〜700万台としていますが、おそらくもっと上に行くと思っています。だからといって、加入者が全員スマートフォンに移行するかというと決してそうではなく、必要最低限の機能があれば十分というシニアや子供など全体の20〜25%はフィーチャーフォンに残ると計算しています。また、毎月の支払い額が増えることで躊躇する方なども出てくるでしょうが、ドコモユーザーのうち約3000万人が今後数年間でスマートフォンに移行する可能性があると予測しています。
●つまり、これから数年間はフィーチャーフォンからスマートフォンへの乗り換えが進むことで、市場の活性化が期待できるというわけですね。
(聞き手・土谷宜弘)
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