●御社は2011年5月に新たな事業ビジョン「ビジョン2015」を策定しました。2015年度のNTTコムグループの営業収益1.5兆円以上を目指すことを柱としたものですが、狙いを教えて下さい。
海野 まず、数値目標をきちんと持とうということです。企業のビジョンやスローガンは、本当に守られたのかどうか分からないまま、曖昧になってしまうケースが多くあります。しかし、それがハッキリしないと、反省もできませんし、次の目標も立てられません。数値目標を掲げれば、守れたかどうかが明確になります。
では、1.5兆円を達成するには何をすればよいかと考えると、「クラウド」と「グローバル」というキーワードが浮かび上がります。
基本的に日本市場はシュリンクしていますので、そうしたなかで1.5兆円を達成しようとすれば、現在国内で展開しているビジネスを大きく変えていくか、国外に出て行くかの2つになります。前者がクラウドで、後者がグローバルなのです。
●クラウドについては、東日本大震災が、結果として普及に向けて背中を押した格好になっています。
海野 従来は「コストは安くなるけど安全性はどうか」とセキュリティへの不安が多く、「やはりデータは自分で持っていたほうがいい」というのが多くのお客様の感覚でした。しかし個人的には、セキュリティへの不安は慣れの問題だと思っています。データが手元にある時は、PCの紛失や盗難への不安があり、預けると今度はデータが手元にないことの不安が増大するものです。私はどちらが正しいということではなく、どう慣れるかだと思います。それが今般の大震災を1つのきっかけとして、「データは外に預けたほうがより安全」というように、お客様の感覚が変わってきたと実感しています。
奇をてらわず安心・安全を提供
●クラウドサービスは「BizCITY」ブランドで積極展開していますが、御社が考えるクラウドとは、どのようなものですか。
海野 昔は拠点間の内線通話を実現する時、自営と言って、お客様が自ら交換機を設置して保守もしていました。しかし現在は、IP化の進展のなかでそういう形態を取る方は少なくなりました。それと同様に、先ほどの慣れも手伝って、サーバーを預けることが何の不思議もないという時代が来るでしょう。アプリケーションですら、汎用的なSaaSでよいという時代が来ています。
そうした時に、どこに預ければよいかというと、ITベンダーという選択肢もあるでしょうが、これまでも交換機を預かって安定的にサービスを提供してきた、一番信頼のおける我々キャリアに預けていただくほうが、お客様はよりハッピーになれるのではないでしょうか。
我々も、お客様自身で手掛けておられた業務の一部を引き受けることで、ビジネスボリュームが増えます。つまり、奇抜なことを考えて一発当てるのではなく、時代の流れに沿って我々がサーバーをお預かりし、安心・安全を提供する。それがNTTコムが考えるクラウドなのです。
●ITベンダーの話が出ましたが、彼らとは競合する形になると思います。どう差別化していきますか。
海野 例えばITベンダーがクラウドサービスを提供される場合、彼らのデータセンターとキャリアのネットワークをつなぐための回線が必要となります。しかし、我々がクラウドを提供すれば、その回線分のコストが削減でき、お客様にとってはお得になります。
また、ITベンダーにとっては、サーバーやアプリケーション等を販売する相手が、従来のユーザー企業から我々のようなクラウドサービス事業者へと変わります。我々キャリアが大得意先になるのです。作ったサーバーをどんどん売っていただけるよう、働きかけていきます。
●ユーザーからみれば、「クラウドにすると本当に安くなるのか?」という疑問はあると思います。
(聞き手・坪田弘樹)
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