●2011年度末の決算会見で田中(孝司)社長が「auモメンタムが完全に回復した」と発言しました。実際、MNPで8カ月連続純増トップを記録するなど好調ですが、その要因はどこにあるのですか。
石川 au事業が復調した最大の要因は、スマートフォンのラインナップが充実したことです。当初は出遅れましたが、昨年10月に「iPhone 4S」を発売しましたし、Androidスマートフォンも28機種になりました。「選べる自由」というコンセプト通り、十分な品揃えになっていると思います。
昨秋以降、マーケティング戦略もがらっと変更しました。お客様から見ると、ロゴやテレビCMが変わったぐらいしか気づかれないかもしれません。しかし、それらは表面的なことで、CMなどのマス広告とWeb上のバナーやリスティング広告、全国に3000店舗以上あるauショップや量販店に統一感を持たせるマーケティングにしました。
3点目に、解約率の低下です。加入者の流出を抑えることがベースの力となるので、ネットワークを細かく見て、つながりにくい場所があれば対応したり、承諾を得たお客様にメールで常に最新の情報をお送りするといった取り組みを強化してきました。
また、これまで加入者の獲得についてはauショップ中心で、その他にお客様とのタッチポイントがあまりありませんでした。お客様にauのことを知っていただき、商品の魅力をお伝えするための場としてイベントを盛大に開催しました。量販店のauコーナーも強化しました。
そして3M戦略です。固定通信サービスと組み合わせることでauスマートフォンの利用料金が月額1480円割り引かれる「auスマートバリュー」が好評です。サービス開始から3カ月以上が経過して様子がつかめてきましたが、auスマートバリューに新規で加入してくださるお客様の実に6割以上はMNPによる他社からの移行です。携帯電話市場は加入者が1億2000万人を超え、機種変更が中心になっている中で、3M戦略が非常に威力を発揮していると考えています。
●これまでの取り組みが連動して成果を上げているというわけですね。
石川 空振りはなかったと思います。ほぼ満足できる分野とこれから磨きをかけなければならない分野など個別の状況は異なりますが、5つの要素それぞれが効果を発揮しています。
●3M戦略はKDDIならではの内容であり、非常にインパクトがありました。導入に際し、社内では相当議論が繰り広げられたのではありませんか。
石川 そうですね。田中の社長就任後の昨年1月から、社内では毎週のように議論を戦わせていました。まず、「マルチデバイス」「マルチネットワーク」「マルチユース」という3つのMをそれぞれどうするかという問題がありました。
具体的には、スマートフォン、タブレット、PC、テレビと複数の機器をどう連携させていくのか、モバイルと固定の両方をご利用いただくためにはどうすればいいのか、スマートフォン時代に複数のネットワークやデバイス間でシームレスにお使いいただけるサービスとは、といったことを相当議論してきました。
OTTと連携してシナジーを生む
●月額390円でアプリがダウンロードし放題になる「auスマートパス」は、アプリの利用率に応じて開発者に利益を分配する仕組みを導入しています。フィーチャーフォンのコンテンツでは通信キャリアは料金の回収代行を担っていましたが、通信キャリアが自らリスクを取って新ビジネスを立ち上げるという積極的なビジネスモデルと言えるのではありませんか。
石川 新しいサービスを提供するにあたり、お客様に喜んでいただけることが一番ですが、コンテンツプロバイダー(CP)と我々がWin-Winの関係になることも重要です。そのためのビジネスモデルを考えるのが新規事業統括本部長の仕事であり、3Mというフレームの中でビジネスモデルを変革するという目的から早い段階で構想を打ち出してきました。
お客様とCP、通信キャリアの三者それぞれにメリットをもたらすという意味で、auスマートパスは大変革だと思います。
●スマートフォンが浸透するに伴い、OTT(Over The Top)が存在感を高めています。アップルの垂直統合モデルでは、通信キャリアはネットワークを提供するだけの役割になることから、「土管化リスク」が世界の通信キャリア共通の課題です。国内でもNTTドコモが独自サービスを強化することで“土管屋”になることを回避しようとしていますが、3M戦略はOTT対抗策とも言えますね。
(聞き手・土谷宜弘)
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