●通信業界はモバイル/ワイヤレスとスマートフォンの普及、ソーシャルをはじめとするネットサービスの隆盛など大きく変貌し、固定通信事業を取り巻く状況は厳しさを増しています。現状をどう分析していますか。
村尾 モバイルが今後も成長を続け、通信事業の中核を占めることは世界的な趨勢です。また、ネットワーク上のアプリケーションなど上位レイヤで収益を上げるインターネットの世界が発展していくことは間違いありません。
当社はどちらかというとネットワーク以下の中・下位レイヤを強みとすることから、冷静に見るとこれらのトレンドから外れています。従って、市場環境が急速に変化する中で、今の状況にしがみついていたのでは将来の絵を描くことはできません。
では、どうするのかというと、制度上のさまざまな制約を言い訳にすることなく、知恵を振り絞り、いかに新しい道筋を切り開いていくかの一言に尽きます。
●社長就任会見では、自らのミッションとして「光サービスによる新しい文化の創造」という新しい理念を挙げていました。
村尾 お客様の求める価値は単なるモノや機能から、体験へと変化しています。
以前は「回線を売ります」「キャッチホンサービスを売ります」という“モノ売り”でビジネスが成り立っていました。しかし、今はお客様のライフスタイルを豊かにしたり、変革するものを出すことで魅力的なユーザー体験を「デザイン」することが重要で、単に「光回線を売ります」という売り方には限界があります。
そこで今年4月に映像系サービスのアライアンスを手がける「アライアンス推進室」を設置したのに続き、この7月には、新規性の高いビジネス・サービスを創出する「ビジネスデザイン推進室」を新設しました。
競争対策に知恵を絞る
●具体的にどのような取り組みをしていますか。
村尾 世の中には魅力のある技術やアプリケーションがたくさんあります。それらを提供している企業とアライアンスを組み、我々の強みである光回線を組み合わせることで、新たなライフスタイルを生み出すようなサービスを提供していこうとしています。そうした意識改革を起こし、何でも自分で揃える「自前主義」から脱却しようと考えています。
一例として、映像を使ったコミュニケーションがあります。法人市場ではテレビ会議システムとして普及が進んでいますが、コンシューマー市場ではテレビ電話はほとんど売れていません。プライベートの顔を他人に見せたくない、第三者に顔を知られたくないなどの理由が考えられますが、それはテレビ電話を販売する際、ライフスタイルの提案をせずにモノとしての提案しかしていないのが原因です。
私は開発部隊に対し「生活空間の共有という概念で作り上げてほしい」とうるさく言っています。テレビ電話も面と面で向かい合うから嫌がられるのであって、例えば単身赴任で家族と離れて暮らしている人がテレビをつけると自宅の生活空間を見ることができるといった利用であれば、受け入れられるはずです。そうしたイメージを私は「文化の創造」と呼んでいます。
そして、ユーザーの感動を生むサービスのために、パートナーとの協力、協調をもっと推進していきたいと思っています。
●「フレッツ光」の純増数は昨年度より少ない65万件を目標にしています。他事業者との競争激化など厳しい環境にありますが、どのようにして加入者を増やしていきますか。
村尾 東日本と西日本は一緒にされがちですが、両者の競争環境は大きく異なります。西日本では各地域の電力系通信事業者と激しい競争を繰り広げており、それはシェアにも現れています。昨年末の時点で東日本の約80%に対し、西日本は約67%です。なかでもケイ・オプティコムの影響力が強い関西エリアでは、当社のシェアは60%を切っています。
こうした状況にあるため、早い時期から競争対策を取ってきました。「半値八掛け二割引」という言葉があるように、関西では割引が当たり前です。当社でも8年以上も前から「フレッツ・あっと割引」や「光ぐっと割引」「光もっと割引」などの割引サービスを順次展開してきました。その結果、対前年比の解約率は数年前から減少しています。ただ、これでいいというわけではなく、さらに競り勝つような施策をもっともっと出していこうとしています。
●KDDIの「auひかり」は、auスマートフォンとのセット割引「auスマートバリュー」により加入者を大きく伸ばしています。西日本でも影響を受けていますか。
(聞き手・土谷宜弘)
続きは本誌をご覧下さい