●iPhone 5の発売に合わせて、2012年末に予定していたLTEサービスの開始を前倒しました。冬モデルの発表会でも、田中社長は「au 4G LTE」の優位性を強調していました。新たなネットワーク構築を短期間でここまでこぎつけるには相当な努力が要ったと思います。
嶋谷 800MHz/1.5GHz帯と、iPhone 5が対応している2GHz帯の両方でLTEのインフラを急ピッチで整えなければならず、この一年、大変だったのは事実です。iPhone 5の発売時にLTEネットワークが無いのでは話になりませんから。
●どのように実現したのでしょうか。
嶋谷 現存の3G用2GHz帯基地局装置にカードを差し替えるだけでLTE化ができたことが大きな要因でした。これは800MHz帯の基地局でも同じです。一部、新たに建設している局もありますし、既存局の更新も1局1局は比較的短時間の工事ですが、短期間で多くの基地局をLTE化することに大変苦労しました。
LTEサービスはNTTドコモに比べてスタートが2年遅れています。800MHz帯再編の影響があったとはいえ、遅れた以上、やるからにはロケットスタートしなければいけないという決意で取り組んでいます。
ピコセルを世界初導入
●LTEでは高速化に目が行きがちですが、KDDIでは「ピコセル」や「Optimized ハンドオーバー」「CSFB(Circuit Switched FallBack)」などの新技術によって、使い勝手や体感品質の向上にも注力しています。
嶋谷 その通りです。お客様体感に直結するという意味で、ネットワークのきめ細かい作り込みは非常に重要だと思います。
世界で初めて導入したピコセル基地局は、今回、2GHz帯のLTEエリアを急いで整備するのにも役立ちました。マクロセルとピコセルを組み合わせてエリアの隙間を埋めることで、お客様が移動しても3Gに落ちずにスムーズにLTEを使えます。
ピコセルは本来、マクロセルのカバーエリアの中に重ねて設置して、トラフィックの増大を吸収するために容量の“厚み”を持たせるものとして考えており、その効果も非常に大きいものです。今後は、例えば都心部などのトラフィックが集中するエリアでサービス品質を高めるためにピコセルを活用していきます。
●エリアカバーと、サービス品質向上の両面で効果が出るわけですね。
嶋谷 工事が容易なことも重要です。設備自体が小さく、重量も10kg程度と軽いため、ビルの壁面や看板の裏などにつけることも可能で、エリア整備のスピードにもプラスに働きます。
“工学”が差を生む時代に
●Optimized ハンドオーバーとCSFBについては、具体的にどのような効果があるのでしょうか。
嶋谷 LTEから3Gのエリアに移る際、一般的なハンドオーバーでは5秒程度の途切れが生じます。Optimized ハンドオーバーは、LTE網上であらかじめEVDOとのコネクションを張る処理を行っておくことで、瞬時に切り替えが可能になります。
LTEではデータ通信を行い、通話時には3Gに切り替えるCSFBを利用するわけですが、これにはさまざまなタイプがあり、我々はその中でも電池の持ちと接続性のバランスが最も良い最新の方式である「エンハンスドCSFB(eCSFB)」を採用しました。LTE網上で、発着信処理の準備を予めしておくことで接続時間を短縮します。着信があってからLTEの接続を落とし、それから音声処理を始める従来版のCSFBが約4秒を要するのに比べて、半分の2秒でつながります。
常にEVDOとLTEの両方を待受けして瞬時の切り替えを行うような仕組みもありますが、それでは電池が持ちません。電池の持ちと接続性の良さのバランスを取り、トータルで快適性を高められるという観点から、世界で初めてeCSFBを採用したのです。
●いずれも標準技術ですが、実装して品質向上に生かせるかがキャリアの力として問われます。同じLTEでも、ネットワークとオペレーションで差別化を図るわけですね。
(聞き手・土谷宜弘)
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